東京オリンピックのボランティア募集サイトは何がまずかったのか
オリンピックのボランティア募集サイトが話題に
今オリンピックのボランティア募集サイトが悪い意味で話題になっています。
私も見てみましたが、参加フォームの使いづらさはある意味秀逸です。オリンピックサイトという、誰でも簡単に使いやすく作られるべきサイトのページでこのような惨劇に至った理由はある意味気になるところです。
さて、オリンピックは公共性の強いイベントですので、一般企業がやるほどのようにイベントを魅力的に見せる必要はないかもしれませんが、後にふれる今回のサイトの目的が「ボランティアに興味を持ってもらい、応募を集める」ことだとする場合、ボランティア募集サイトはどうあるべきかについて検討します。
サイトがとても使いづらい
こちらのサイトから実際にアクセスしてみましょう。操作し辛いのはボランティア募集ページです。スマホから見てみるとその使いづらさが、よりわかるはずです。
https://tokyo2020.org/jp/special/volunteer/
そもそもこのサイトの目的は?
すべてのサイトは何かを達成するために作られます。ECサイトであれば物やサービスを売るためであり、コーポレートサイトであればブランディングを図ることで人材採用や営業に繋げるため、といった具合です。今回の場合はボランティア募集サイトですので、文字通りボランティアを募ることが目的です。
東京オリンピック・パラリンピックでのボランティアの募集人数は8万人で、1人あたりの必要勤務日数は最低10日間(1日8時間)。しかしながら1日1000円しか支払われないということでそのブラックぶりが話題になってしまっていますから、ボランティアスタッフをより多く集めたいというのはオリンピック実行委員会の切なる願いではないでしょうか。
目的達成のためのストーリー
さて、今回のサイトの目的達成のためのストーリーを簡単に3つに分けてみましょう。
step1
ボランティアを募集していることを伝える
step2
ボランティアの魅力を伝え、興味を持ってもらう
step3
応募のハードルを下げ、応募数を増やす
step1 ボランティアを募集していることを伝える
ボランティア募集が始まっていることは全国のテレビ番組で頻繁に放送されているので、周知の事実と言えるでしょう。この時点でstep1はクリアです。
通常のボランティア募集をかけるときは、予算がない限りはボランティア募集サイトに掲載したり、ボランティア募集ホームページを開設したのちひたすら待つ、ということになりますからオリンピックのボランティア募集サイトは非常に恵まれています。
step2 ボランティアの魅力を伝え、興味を持ってもらう
ボランティアで何をやるかについてはまだ知られていない部分も多くあるのではと思うのですが、表彰式でメダルを渡す人の付きそうのスタッフもボランティアで募集していると私も今回初めて知りました。
さて、ボランティアの魅力を伝えるために、オリンピックボランティアの特殊性やメリットを際立たせたうえで情報発信を行いたいのですが、そのためには情報の打ち出し方を考える必要があります。その下準備として、まずボランティアを行うメリット・デメリットを整理しましょう。メリットとは物理的なもの以外にも、やりがいや感動といった感情も対象になります。
ボランティアを行うメリット・デメリット
メリット・デメリットを考えることで、他のイベントとの差別化ポイントが見えやすくなります。
メリット
・一生に一度しかないオリンピックスタッフの経験ができる
・世界各地の人と出会える
・一緒に大会を作っている実感を得られる
・非日常感を味わえ、充実感を味わえる
・オリジナルグッズがもらえる
デメリット
・最低10日間のボランティア日数の確保が必要
・謝礼が1日1000円しか支払われず、交通費や飲食代をふまえるとマイナスになる可能性がある
打ち出すべき点
以上を踏まえると、今回のオリンピックボランティアは「一緒に一度しか経験できないかもしれないこと」「自分らが参画して大会を作る」点を大きく打ち出したが良さそうです。(前回の東京オリンピックが1964年と、54年前のことです)
また、謝礼はないので、「やりがい」や「人との繋がり」などの部分を押すべく、アスリート選手からのボランティア人材へのコメントや他国でのオリンピックボランティア経験者の声などをコンテンツとして設けることで、より「やりがい」を感じてもらえるようになると思います。
興味を持ってもらうために
より多くの方に興味をもってもらえるように、例えばインフォグラフィックスの表現技法を用いて、今回のオリンピック・パラリンピックの特徴的な数字を表現することも有効です。
インフォグラフィックスとは情報を視覚的にわかりやすく表現する技法のことです。下記のリンクからインフォグラフィックスのpinterest検索結果が表示されます。オリンピックという世界最大のイベントですので、老若男女の方、障害がある方にも伝わりやすい表現技法を用いるべきです。
step3 応募のハードルを下げ、応募数を増やす
今回のサイトで一番まずかったのはこの部分です。
応募者を増やさなければならないにも関わらず、操作方法が分かりづらく、最後まで登録完了できる人は相当モチベーションが高い人に限られます。こういった応募フォームは途中で離脱するユーザー(応募者)が出ないように、ストレスをかけさせずに作るのがセオリーですが、使い手のことは殆ど考えられずに作られてしまったのが今回のサイトだと見受けられます。
応募フォームの何が悪かったのか
私も応募フォームの途中で離脱してしまったユーザーの1人として何が悪かったのか実際の例をあげて解説したいと思います。
1、応募フォームを開くと英語表記がまず表示される
(これは私だけでしょうか?)右上の日本の国旗を押すと日本語に切り替わるのですが、はじめはわかりませんでした。英語表記だから入力を諦める、という人も一定数存在しそうです。
2、上下の固定のヘッダーとフッターの幅が広く、応募フォームが狭くなってしまい、見づらい
特に下のAtoSと書かれたフッターの意味を感じません。本文の情報量を無駄に少なくし、操作性を低下させてしまっています。
3、ユニフォームサイズ表などが画像ファイルで横長となっており、見づらい
スマホ対応するのが面倒だったのかな、という気持ちを感じる仕様になってしまっています。身長を元にサイズを探す人が大半だと思いますので、スマホの場合は身長をベースに縦スクロールで検索できるようにすべきです。
4、画面最後尾に「次のSTEPに移る」機能がない
STEP1〜6まで分かれていますが、各STEPのページの最後尾に他のSTEPに移るボタンやタブがないので、わざわざ最上部までスクロールして戻る必要があります。
5、STEP6の「規約」で「はい」を選択させるのにプルダウン機能を使っている
選択肢が1つしかないにも関わらず、わざわざプルダウンを開かせるのはただの嫌がらせです。応募フォームの入力に時間がかかることがわかっているのであれば、最小の時間で操作できるように設計すべきです。(応募フォームの入力には約30分かかりますが、という前置きが応募フォームの直前にあります)
まとめ
今回の反省は「ユーザーの気持ちに立てなかったこと」に尽きます。近年はUIやUXという言葉に代表されるように、いかに快適に操作してもらうかが注目されています。
また、最近読んだ「おもてなし幻想」という本が面白かったのですが、おもてなしばかりをやるのではなく、いかにユーザーに苦労させずに手続きをさせるか(プラスの体験をさせるというより、マイナスの体験をさせない)も重要です。
オリンピックボランティア募集サイトなので、今回のような出来でもボランティアは集まるのでしょうが、企業や動物病院はこの例を反面教師として、ユーザー目線での制作・運用を続けていきましょう。