動物病院のCRMとデータ分析
動物病院のCRM
カスタマーリレーションシップマネージメントは、英語のCustomer Relationship Managementの頭文字をとってCRMとなるわけですが、動物病院のCRMという考え方そのものは以前よりシステム的な取り組みがなされてきたことはないものの、既存顧客との関係を図るという意味ではとても重視されている、あるいは特定の動物病院にとってはとても大切だと認識されている領域です。
CRMは、厳密にいうと情報システムを用いて顧客との関係を強化し、収益の最大化を図る手法とも言われています。
一方で、言葉の使われ方としては必ずしも「情報システムを用いて」という前提が必要ない場合も多々あり、この点については当然、大量かつ重要な顧客情報を管理し有効に活用するためには情報システムが必要という大前提がそこにはあるのかもしれません。
もちろん獲得した顧客情報は、それそのものには何の価値もなく、それらの情報をどのようにセグメント化し、そのセグメントごとに個別施策を打ち出すことが出来て初めて意味があるものになるわけでして、CRM戦略というのは決して顧客管理の方法を考えるものではなく、顧客情報を詳細まで分析し、その顧客セグメントに対してどのようなマーケティングミックスを適用するかまでを考える戦略だということになります。
動物病院がこのような情報の統制を取ることが出来ない理由は色々とあり、最も大きなものとしては、CRMを有効活用出来るほどの経済規模まで拡大出来ないことなどがあるのかもしれません。
他方、その利用方法や考え方のベースにあるものは、どのような規模であれ活用することは可能であり動物病院がそれらを活用する必要がないと判断することは非常に難しいとも言えます。
いずれにしても、何よりも重要なことは、CRMは動物病院のお客様をより細分化して上で、その細分化した内容に対して適切なマーケティング活動を行っていくための道具にすぎないということを理解することです。
これは別の言葉に置き換えれば、IT主導ではなくマーケティング主導であるということと、確固たるマーケティング戦略を構築しないままITを構築したところで何の価値も生み出すことが出来ないということに他なりません。
動物病院の人材不足
別の大きな問題として、人材不足が挙げられます。
いかにしっかりとしたマーケティング戦略とIT戦略が出来上がったとしても、それらを使いこなすことは容易ではないのが現実です。
例えば、データサイエンティストと呼ばれる仕事がありますが、統計を細かく理解しIT知識を持つデータ分析の達人が、このようなデータ分析には必要になるのですが、データサイエンティストと呼ばれるような専門家は、動物病院で雇用をするにはそのコストがあまりにも大きすぎますし、何よりも多くの業界から引く手あまたの人材不足が叫ばれる専門職のため、動物病院業界で確保することそのものが至難の業といえるかもしれません。
つまりデータサイエンティストという専門職そのものが、売り手市場であり、多くの業界では動物病院の院長の年収を超える程の年収を提示しても確保が難しいという程の人材不足です。
また、如何にこれらの仕事が将来的には動物病院のメリットになるとわかっていても、それよりも1人でも多くの獣医師を採用した方がわかりやすく売上が伸びるという動物病院が圧倒的多数を占める現在の動物病院業界にとっては、全く持って優先度が高くはない人材とも言えてしまうのが残念なところであり、同時に獣医師の人材不足の方がより喫緊の大きな課題となっている現実があるわけです。
実はもっと特徴的な問題
CRMとデータ分析について述べてきましたが、実はもっと根本的に難しい問題が動物病院にはあります。
これは動物病院が持っているデータは患者となるペットのものが主体であり、それにリンクする形で飼い主のデータです。
一般的な消費活動に伴うデータ分析は、消費者本人の情報と合わせて、多くの消費行動の記録などが分析の対象になるわけですが、動物病院が保有するデータの主体となるペットの情報と、飼い主の消費行動のデータの蓄積は全く属性の異なるデータになってしまうため、飼い主に付随するデータの蓄積が難しい動物病院の場合にはより細かい分析そのものがなかなか意味のあるものにすることが出来ないという問題が存在します。
このような状況だからこそ、現在の動物病院には体系的なデータ分析の習慣は存在せず、またCRMシステムと言っても実態には則していないCRMシステムとなってしまっているケースもあるわけで、それそのものはとても重要な取り組みではあるものの、一つ一つの情報が実際には何を意味し、それらにどのようなマーケティング的アプローチをしたいがための施策なのか?をしっかりと認識した上で、効果検証をすること、またデータ獲得をする際にもどのようなデータが必要かを事前にデザインをしてデータ蓄積をしないと意味のある経験と実績の積み重ねにはならないという点には注意が必要です。